今回は薬の標的(作用点)について詳しく勉強していきます!
標的(作用点)とは何か簡単に説明した記事があるので、まだご覧になっていない方は、そちらも参考にしてください。↓↓
標的(作用点)の種類について
前回の記事のおさらいです。標的(作用点)には代表的なタンパク質に以下の4つが挙げられます。
標的(作用点)
- 受容体
- イオンチャネル
- 酵素
- トランスポーター
今回はこの4つの標的(作用点)のうち『受容体』について詳しく説明していきます。
受容体
受容体とは、ホルモンや神経伝達物質(ノルアドレナリン、アセチルコリンなど)が結合するタンパク質で、この受容体にホルモンや神経伝達物質が結合することで、様々な細胞内反応を引き起こします。
受容体とそこに結合するタンパク質(リガンド)は、よく『鍵(リガンド)』と『鍵穴(受容体)』に喩えられます!
受容体の種類
- イオンチャネル内蔵型受容体
- Gタンパク質共役型受容体
- キナーゼ連結型受容体
- 核内受容体
イオンチャネル内蔵型受容体
イオンチャネル内蔵型受容体とは?
・リガンド(神経伝達物質や薬など)がくっつく部位(リガンド結合部位)とイオンチャネル(イオンの通り道)部位から構成されています。リガンド結合部位にリガンドがくっつくことで、イオンチャネルが開閉。それに伴いイオンが細胞内に流入し、分極変化が起こることで効果を発揮します。
- リガンドが受容体に結合する。
- 受容体にくっついているイオンチャネルが開口し、イオンが細胞内に流入する。
- イオンが細胞内に入ることで分極の変化(脱分極や過分極)が起きる。
- その後いくつかの段階を経て効果が発現する。
今回の説明では、『受容体』からの視点で『イオンチャネル内蔵型受容体』と説明しているが、『イオンチャネル』に出てくる『リガンド依存性イオンチャネル』も同じものを指しているということを覚えておきましょう!
イオンチャネル内蔵型受容体の種類
●ニコチン受容体(NN:自律神経、NM:運動神経)
⇨関連物質:アセチルコリン
・ニコチン受容体には2種類の受容体が存在し、NN(自律神経)受容体は主に自律神経節と中枢神経系に存在し、NM(運動神経)受容体は運動神経によって支配される骨格筋に存在する。NM受容体は、骨格筋の収縮に関与する。
骨格筋の受容体に関する内容は、看護師国家試験でも問われたことがあるので覚えておきましょう!
第112回 午前26問
骨格筋の細胞膜には( )に対する受容体がある。自己抗体がこの受容体の働きを阻害すると骨格筋は収縮できなくなる。( )に入る神経伝達物質として正しいのはどれか。
1. アセチルコリン
2. アドレナリン
3. ドパミン
4. ノルアドレナリン Ans.1
●GABAA受容体
⇨関連物質:GABA(γ-アミノ酪酸)
・主に脳や脊髄に存在。①GABAが受容体に結合すると、②クロライド(Cl –)イオンチャネルが開口し、Cl –が細胞内に流入することで③過分極が起こり、④神経活動が抑制されることにより『安らぎ、精神安定、睡眠』に関与する。
GABAA受容体は、ベンゾジアゼピン系の薬に関わってるのでここでしっかり基礎をおさえておきましょう!
Gタンパク質共役型受容体
Gタンパク質共役型受容体とは?
・代謝型受容体ともよばれ、細胞膜を7回貫通する特徴的な構造をしています。細胞外の受容体にリガンドがくっつくと、細胞内にある受容体の一部がGタンパク質を活性化し、活性化されたGタンパク質が、他のイオンチャネルや酵素などを活性化させることで細胞内に情報を伝達し効果を発揮します。
- リガンドが受容体に結合する。
- 受容体の構造が変化し、Gタンパク質(チャネルや酵素を活性化するもの)を活性化させる。
- 活性化されたGタンパク質が、チャネルや酵素を活性化させる。
- 活性化されたイオンチャネルや酵素から細胞内に刺激が伝わる。(イオンチャネルであればイオンを細胞内に流入、酵素であればセカンドメッセンジャー(細胞外の情報を細胞内に届けるもの)を生成する。)
- 効果が発現する。
Gタンパク質共役型受容体の種類
受容体 | 関連物質 |
アドレナリン受容体(α、β) | アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン |
ムスカリン受容体(M) | アセチルコリン |
ドパミン受容体(D) | ドパミン |
セロトニン受容体(5HT) | セロトニン |
ヒスタミン受容体(H) | ヒスタミン |
GABAB受容体 | GABA(γ-アミノ酪酸) |
各受容体の詳しい説明については、別の記事で詳しく説明しているのでそちらも参考にして下さい↓↓
キナーゼ連結型受容体
キナーゼ連結型受容体とは?
細胞膜を貫通する受容体であり、細胞外のリガンド結合部位にリガンドが結合すると、細胞内のキナーゼドメイン(リン酸化酵素部位)が活性化され、受容体や他の関連タンパク質がリン酸化され反応が起こります。
- リガンドが受容体に結合する。
- 細胞内のリン酸化酵素部位が活性化される。
- 活性化された受容体が、関連タンパク質をリン酸化し、活性化させる。
- 効果が発現する。
キナーゼ連結型受容体の種類
●受容体チロシンキナーゼ(RTK)
- 例: EGF受容体(上皮成長因子受容体)
- 機能: 細胞の増殖、分化、生存に関与します。
●インスリン受容体
- 機能: インスリンが結合すると、細胞のグルコース取り込みや代謝に影響を与えます。
『インスリン受容体』は有名で、看護師の国家試験で問われる可能性があるので覚えておきましょう!
核内受容体
核内受容体とは?
脂溶性が高く、細胞膜を通過できるリガンドが、細胞核内にある受容体に結合することで効果を発揮します。
- (脂溶性が高い)リガンドが細胞膜を通過する。
- 細胞膜を通過したリガンドが、核内にある受容体(核内受容体)に結合する。
- 細胞核内のDNAに直接結合し、特定の遺伝子のスイッチをオンまたはオフにする。これにより、細胞の働きが変化する。
- 細胞の働きが変化することで効果が発現する。
脂溶性が高いリガンドが、細胞膜を通過できるのは、細胞膜が『リン脂質二重層』で構成されているからです。油の膜でできているから、脂溶性(油っぽい)物質は通過できると考えたらわかりやすいね。
ステロイドホルモン | 脂溶性 | 性ホルモン: アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン 副腎皮質ホルモン: アルドステロン、コルチゾール |
---|---|---|
アミン類 | 脂溶性 | 甲状腺ホルモン: サイロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3) |
水溶性 | カテコールアミン: アドレナリン、ノルアドレナリン | |
ペプチドホルモン | 水溶性 | その他のホルモン |
脂溶性物質に関しては、過去に看護師国家試験で問われたこともあるので覚えておきましょう!注意が必要なものに『甲状腺刺激ホルモン』と『甲状腺ホルモン』は違うものなので間違えて覚えないように!!『甲状腺刺激ホルモン』は水溶性!!
第108回 午後27問
標的細胞の細胞膜に受容体があるのはどれか。1. 男性ホルモン
2. 甲状腺ホルモン
3. 糖質コルチコイド
4. 甲状腺刺激ホルモン Ans.4
第108回 午後27問では、「細胞膜に受容体があるもの」と問題文に記載されていますが、これは細胞膜を通過できないから、細胞膜に受容体が必要だということを考えなければダメです。上記の選択肢のうち、細胞膜を通れない(=水溶性)物質が答えとなるので、正解は『4、甲状腺刺激ホルモン』です!
受容体に対する薬の働き
薬は標的となる受容体に結合したあと、受容体の働きを強めたり弱めたりすることで効果を発揮します。
●key word
- 親和性:受容体とリガンドの結合しやすさ
- 効力:受容体を活性化する力
親和性と効力がごちゃ混ぜになる人もいるけど、『親和性』は薬のくっつきやすさで、『効力』はくっついてその受容体を活性化する力のことなので、しっかり区別して覚えましょう!ちなみに、受容体遮断薬は受容体の活性を抑えるから、親和性が高くてくっつきやすくても、効力はないので注意やね。
受容体にリガンドがくっつくことで様々な反応が起こります。
作動薬:アゴニスト
リガンドのうち受容体に結合し、受容体を活性化させ効力を発揮する薬を『作動薬(アゴニスト)』といいます。その中で、受容体と結合すること最大の反応をもたらす薬を『①完全作動薬』といい、受容体の反応が低下している場合は促進的に働き、受容体の反応が過剰な場合は阻害的に働く薬を『②部分作動薬』といいます。
拮抗薬(阻害薬):アンタゴニスト
受容体に結合するが、受容体を活性化せずにリガンド(または作動薬)の結合を阻害する作用(拮抗作用)を持つ薬を『拮抗薬(阻害薬、アンタゴニスト)』といいます。その中で、リガンドと同一部位に結合し、拮抗作用を示す薬を『③競合的拮抗薬』といい、リガンドとは異なる部位に結合し、受容体の構造を変化させて拮抗作用を示す薬を『④非競合的拮抗薬』といいます。
②部分作動薬は作用は①完全作動薬と比較してマイルドやけど、薬効が強くなりすぎる心配がないのが利点やね。③競合的拮抗薬は、イメージとしては「椅子取りゲーム」に似てるかもね。なのでリガンド(作動薬)の濃度が増える(椅子取りゲームに参加する人が増える)と拮抗作用も弱くなるので覚えておきましょう!
④非競合的拮抗薬もリガンド(作動薬)の濃度が増えると拮抗作用が弱くなるんですか?
④非競合的拮抗薬はリガンドがくっつく部位が全く別のものに変えられてしまってるので、リガンドを増やしても拮抗作用は弱くならないよ!
まとめ
今回は標的(作用点)のうち『受容体』について詳しく解説を行いました。
受容体は薬理学の中心的な概念であり、薬物の効果を理解するための鍵となります。アゴニスト、部分アゴニスト、そして競合的拮抗薬のように、薬物がどのように受容体と相互作用するかを理解することで、臨床での薬物の選択と適切な使用が可能になります。また、これらの相互作用は、薬物の効果だけでなく、副作用や薬物相互作用の理解にもつながります。薬理学の基礎をしっかりと理解することで、より安全で効果的な治療が実現できるので、しっかり今回の内容を振り返っていきましょう。